あの日の話

うたうように話す。

優しさの箱

「おはよう。まだ起きないの?

 今雨が降り始めたよ。外出するなら傘忘れないでね。

 冷蔵庫の中に昨日の残りあるから、お昼に食べてな。腐っちゃうから。」

 

 

新しい録音、1件。

きょう 午前 9時52分。

 

「おはよ。もう会社行った?

 いつものドラマ、なんだっけあれ、録画してくるの忘れちゃった。

 ごめんけど、録っといて!」

 

 

新しい録音、1件。

きょう 午後 23時35分。

 

「もしもし?ごめん、終電逃しちゃった・・・

 課長が三軒目行こうって離さないんだもん。俺のせいじゃないよ・・

 始発を待って帰るよ。アイス買って行くから許してね?チョコミントの。」

 

 

 

 

 

新しい録音は、ありません。

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 

「おかえり」

 

 

「やっと帰ってこれた・・疲れたあー。

 ねえ、最近全然電話出なくない?俺ちょっと悲しいんだけど。」

 

 

「ふふふ」

 

 

「何笑ってんだよ。絶対わざとだろ?」

 

 

「気付いちゃった」

 

 

「何が?」

 

 

「留守番電話って、優しさの箱みたい」

 

 

 

 

よく分からないと彼は笑う。

また明日も届けてくれる?

知らないよと彼は、もう一度笑う。